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文科省、大学研究力強化とWPIのブランド化を議論 基礎研究への社会的支援とAI研究費の課題も浮上

文科省、大学研究力強化とWPIのブランド化を議論 基礎研究への社会的支援とAI研究費の課題も浮上

大学研究力強化、大学単位と分野単位の支援を検討

文部科学省の科学技術・学術審議会基礎研究振興部会は7月27日、第23回会合をオンラインで開催した。会合では、大学研究力の強化、世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の今後、基礎研究と社会の関係、研究支援におけるクラウドファンディング、AI for Science事業「SPReAD」の第1回公募結果などが議論された。大学研究力の強化について、文科省は、大学全体への支援、研究大学が備えるべき機能への支援、組織・分野を超えた連携、研究者個人・チームへの支援、研究基盤への支援という複数の層で施策を整理している(基礎研究振興部会(第23回) 議事録)。大学全体への支援では、「国際卓越研究大学」と、地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)を両輪として進めている。これに加えて、産業競争力と研究力を備えた新たな大学群の形成も検討されている(基礎研究振興部会(第23回) 議事録)。
文部科学省と経済産業省の合同ワーキンググループでは、新たな大学群に求める要件の案として、次の4点が示された(基礎研究振興部会(第23回) 議事録)。
  • 産業競争力強化に向けたビジョン
  • 迅速かつ柔軟な意思決定を可能にするガバナンス・経営力
  • 特定分野における世界トップレベルの研究力・人材
  • グローバルな経済圏への深い貢献
支援方法については、17の戦略分野に沿った「分野単位」の支援と、大学改革を対象とする「大学単位」の支援を組み合わせる案が示された(基礎研究振興部会(第23回) 議事録)。支援期間は10~15年程度とする方向が検討されているが、支援規模、対象大学、正式な制度名称や選定時期は会合時点で決まっていない。

研究費だけでなく、大学経営と人材を重視

大学研究力の強化では、研究費の増額だけでなく、大学の経営や研究マネジメントの在り方も重視された(基礎研究振興部会(第23回) 議事録)。大学の経営層には、学内の研究状況を把握し、強みのある分野を特定したうえで研究資源を重点配分することが求められる。外部資金の獲得や優秀な研究者の招聘によって研究資源の総量を増やし、獲得した資源を学内で再投資する循環も重要とされた。研究マネジメントでは、研究室や学部内にとどまらず、他大学、企業、自治体などを巻き込むことが必要になる。また、大学の研究シーズを起点とするだけでなく、社会課題や産業界のニーズを起点とする研究との相互作用も論点となった。産学連携については、研究成果の社会実装だけでなく、学術研究力の向上や他分野への波及も視野に入れるべきとの意見が出た。企業と大学の意思決定を迅速化・明確化することや、企業人材を大学の中核ポストで受け入れることも課題として挙げられている(基礎研究振興部会(第23回) 議事録)。人材育成では、博士人材に加えて、研究を社会に展開する技術者やテクニシャンなど、幅広い人材の必要性が指摘された。大学と企業の人材交流を活性化し、研究と実務の双方を理解する人材を育成することも重要とされた(基礎研究振興部会(第23回) 議事録)。

WPI、18拠点の蓄積を横断的なブランドへ

WPIは、約20年にわたり、新たな学理の開拓や国際的な研究環境の形成を進めてきた。現在は18拠点があり、そのうち9拠点が「World Premier Status」を取得したアカデミー拠点となっている(基礎研究振興部会(第23回) 議事録)。文科省は、ノーベル賞受賞者の輩出など、基礎研究で顕著な成果を上げてきたと説明した。
WPIは、新たな学理の創出だけでなく、国際頭脳循環の場としても機能してきた。また、高度な研究環境や研究マネジメントを先行的に実践し、その成果や運営手法を大学全体に波及させてきたという(基礎研究振興部会(第23回) 議事録)。
一方、課題として次の点が挙げられた。
  • WPI全体としてのブランディング不足
  • ファンドレイジングの難しさ
  • 研究者や支援部門の人材不足
  • 若手研究者のキャリアパス不足
  • 拠点間連携の機会創出と深化
  • 円安などを背景とした資金不足
  • 過去にWPIに所属した研究者や成果の全体像を把握できていないこと
WPIの各拠点は、補助金終了後に自走化する制度設計となっている。しかし、10年目に補助金が終了すると、若手研究者の雇用や研究環境の維持が難しくなる可能性がある。また、各拠点が個別に成長する一方で、WPI全体としての相乗効果を十分に生かせていないとの問題意識も示された(基礎研究振興部会(第23回) 議事録)。
今後は、WPI関係者の可視化による国際頭脳循環の促進、メディアとの連携、クラウドファンディングなどを通じた社会からの応援の獲得、WPI全体の認知度向上などを検討する(基礎研究振興部会(第23回) 議事録)。
海外の例として、複数の研究所が自律的に活動しながら、組織全体を一つのブランドとして発信するマックス・プランク協会の取組も紹介された(基礎研究振興部会(第23回) 議事録)。
これに対し委員からは、「WPIブランドとは何か」を明確な言葉で定義する必要があるとの意見が出た。研究者向けの評価と、一般社会に向けた認知は必ずしも同じではなく、WPIに所属することで得られる価値を整理することが課題となる。

補助金終了後を支える「成長・発展計画」

WPIの補助金終了後の自走化を支える仕組みとして、「成長・発展計画」も示された。これは、補助金終了後の研究面とリソース面の計画を提出し、具体性や実現可能性が認められた拠点に対して、最大3億円規模の支援を5年間行うもの(基礎研究振興部会(第23回) 議事録)。文科省によると、令和9年度に向けては、IRCNとNanoLSIの2拠点が11年目に入るため、両拠点への支援導入が予定されている。
文科省は、この支援だけですべての課題が解決するわけではなく、WPI全体の認知向上や安定的な運営が本質的な課題だと説明した。委員からは、補助金終了直前ではなく、採択時点から長期的な人材・資金計画を組み込む必要があるとの指摘もあった。

基礎研究を社会から応援される「文化」に

会合では、基礎研究と社会との関係も議論された。文科省は、基礎研究の重要性は認識されている一方、その重要性に見合う社会的な認知や評価が十分ではないのではないかとの問題意識を示した。第7期科学技術・イノベーション基本計画にも、基礎研究・学術研究を社会全体で支える機運の醸成や、「科学が文化になること」を目指す方向性が盛り込まれている(基礎研究振興部会(第23回) 議事録)。科学技術への関心については、科学技術・学術政策研究所(NISTEP)の調査結果が紹介された。調査では、科学技術への関心度と、偽情報・誤情報への接触認識や真偽確認行動との間に一定の関連が示されているという。また、科学技術への関心は近年緩やかな低下傾向にあり、特に30代・40代で低下が見られると説明された(基礎研究振興部会(第23回) 議事録)。既存の科学技術コミュニケーションは若年層が対象になりやすく、関心の低い層や社会人世代へのアプローチが課題となっている。そこで示された新たな切り口が、「推し活」のような能動的・継続的な関心を科学に応用する考え方だ。研究者や研究プロジェクトを継続的に応援する関係をつくることで、科学への関心を一過性の情報接触にとどめないことを目指す(基礎研究振興部会(第23回) 議事録)。委員からは、科学を一括りにせず、分野ごとに関心や支援の動機が異なることを踏まえるべきとの意見が出た。数学など知的・文化的な探究への共感と、医療や技術による社会課題の解決への期待では、支援者の動機が異なるためだ。
また、科学を「知識」として伝えるだけでなく、「知恵」や「叡智」として伝えることが重要との意見もあった。小中学生だけでなく、保護者や30代・40代の社会人を巻き込む活動、SF、アート、映画、小説などを活用した発信も提案されている。

READYFOR、研究支援で資金と認知をつなぐ

READYFOR株式会社からは、研究・文化分野におけるファンドレイジングの取組が紹介された。
同社は、クラウドファンディングを寄附募集の手法の一つと位置づけ、科学技術、博物館、美術館などの非営利分野を支援している。
同社が紹介した事例には、次のようなものがある。
  • 国立科学博物館による1件で9.2億円を調達したプロジェクト
  • 三毛猫の毛色を決める遺伝子を探る研究
  • 電気ウナギの発電機構や植物の生存戦略に関する研究
  • がんの早期発見を目指す血液検査技術の普及プロジェクト
三毛猫の研究では、身近な猫を入り口にすることで、研究者だけでなく猫を飼う人などにも関心が広がった。大隅氏の事例では、基礎研究全体への応援から、電気ウナギや植物といった個別テーマへの支援へと関心を広げたという(基礎研究振興部会(第23回) 議事録)。血液検査技術の事例では、研究者、医師、患者、大学、メディアなど複数の関係者が参加した。支援者の動機も、技術や成果への期待、研究者への応援、母校への愛着、身近なテーマへの関心など多様だった。クラウドファンディングは、資金調達だけでなく、研究の存在や未解決の課題を社会に伝える手段にもなる。一方、単発の支援を継続的な寄附につなげることは課題だ。READYFORからは、国立科学博物館がクラウドファンディングの支援者約5万6,000人を、その後の会員制度などにつなげる取組が紹介された。大学については、卒業生から現役生への支援という「母校愛」を軸にした継続寄附の可能性も示された。
関西大学では、2036年度の創立150周年に向け、原資を蓄積・運用し、その運用益を教育や研究に充てるエンダウメント型基金の取組を進めているという。クラウドファンディングは、基礎研究全体を支える安定財源の代替ではない。しかし、公的研究費や企業資金に加えた資金源の多元化や、社会との接点づくりという面では、研究機関に活用の余地がある。

SPReAD、1万5,868件の応募に対し採択率2.9%

AI for Science萌芽的挑戦研究創出事業(SPReAD)については、第1回公募の結果が報告された(基礎研究振興部会(第23回) 議事録)。
SPReADは、AI for Scienceを幅広い研究分野に波及・振興することを目的とする事業。迅速な支援、伴走支援、独創的研究の芽出し支援を掲げ、10の研究領域と8つのユースケースを設定して公募を行った(基礎研究振興部会(第23回) 議事録)。
第1回公募の結果は次の通り。
項目件数
応募課題15,868件
学生による応募課題2,624件
応募機関787機関
採択課題456件
学生による採択課題61件
採択率約2.9%
年間で約1,000件の採択を目指しているが、想定を上回る応募があり、第1回の採択率は2.9%となった。採択課題は、生命科学・薬学、電気工学・電子工学・情報科学・コンピュータサイエンス、臨床科学などが中心となった。社会科学、材料・プロセス、数理・数学、農学・環境学・生態学、芸術・人文科学、化学などからも採択されている(基礎研究振興部会(第23回) 議事録)。
ユースケースでは、AIモデルの開発、学習用データセットの構築、既存モデルの適応、高度データ解析・モデリングなどが多かった。一方、実験自動化・自律化は設備が必要となるため、500万円規模の支援では取り組みにくい可能性が示された(基礎研究振興部会(第23回) 議事録)。審査・採択では、ピアレビューと無作為抽出を組み合わせ、AIも補助的に活用した。審査委員会は研究分野の多様性も考慮して採択したと説明している(基礎研究振興部会(第23回) 議事録)。この方式について、委員からは、無作為抽出の対象や手順を含む透明性、研究者が結果を納得できる仕組みが重要との指摘があった。また、採択課題がどのような成果を上げ、次の研究や研究費獲得につながるのかを追跡すべきとの意見も出た。

AI活用には、精度だけでなく人材や計算環境の課題

SPReADの申請者へのインタビューでは、AI活用に関する課題も明らかになった。最も多かったのは、AIの出力に対する信頼性、精度、ブラックボックス性への懸念だった。AIが示した結果が正しいか、なぜその結果になったのかを確認しにくいという問題である(基礎研究振興部会(第23回) 議事録)。
そのほか、次のような課題が挙げられた。
  • AI未経験者が一人で始めることへの不安
  • ツールの選び方が分からないこと
  • 学生や研究チームへの指導・体制づくり
  • 計算資源やハードウェアの不足
  • セキュリティ、プライバシー、倫理、法的課題
  • データの量と質
  • 技術進化へのキャッチアップ
  • 多忙による時間不足
  • AIによる人間の役割低下への懸念
対応策として、採択者を中心としたSPReADコミュニティを形成する方針が示された。研究者同士がAI活用の課題やノウハウを共有し、計算資源の提供者やAI for Scienceの実践者から学ぶ機会も設ける予定だ(基礎研究振興部会(第23回) 議事録)。
一方、第1回公募では研究期間が年度末までとなっており、期間の短さも課題となった。令和7年度補正予算による事業で、予算の繰り越しや単年度主義が背景にあるという。
今後は、採択規模の拡充、SPReADとARiSEの間を含む段階的支援、審査・採択の透明性向上、学生の研究費執行管理などを検討する。申請者や関係機関へのアンケートを通じた制度の見直しも進める方針である(基礎研究振興部会(第23回) 議事録)。

研究力を支える「資金・人材・認知」の循環

今回の会合では、大学研究力の強化を研究費だけの問題として捉えず、大学経営、研究マネジメント、産学連携、人材育成、社会への発信を一体で考える方向性が示された。新たな大学群については、特定の戦略分野と大学改革を組み合わせた中長期支援が検討されている。ただし、対象大学や支援規模などは今後の議論に委ねられている。WPIでは、約20年にわたる研究成果や人材の蓄積を、拠点単位にとどめず、WPI全体のブランドとして生かすことが課題となった。補助金終了後の自走化を支える制度に加え、WPIの認知度、人材、社会からの支援を高める取組が求められている。基礎研究と社会の関係では、科学を文化として定着させ、研究者や研究プロジェクトへの継続的な関心を生み出す方法が議論された。クラウドファンディングは、安定財源の代替ではないものの、資金源の多元化と社会との接点づくりに活用できる。SPReADでは、AI for Scienceに対する幅広いニーズが示された一方、採択率の低さ、研究期間の短さ、審査の透明性、AI活用を支える人材や計算環境が課題となった。公的資金、民間資金、社会からの寄附、研究者間の知識共有をどのように組み合わせ、研究成果と社会的な理解・支援の循環をつくるか。今回の会合は、今後の基礎研究政策を考えるうえで、この点が重要な論点になることを示した。
参考資料:文部科学省「基礎研究振興部会(第23回) 議事録」https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu27/siryo/1418092_00029.html) ※本記事は、2026年7月27日に開かれた科学技術・学術審議会基礎研究振興部会の議事録に基づく。会合で示された制度や支援策には、検討中の案が含まれる。

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